かべのこ16
『・・・リゼ』
黒い化物は確かに私の名前を呼んだ。
「おい!」でも「貴様!」でも「お前!」でも「かべのこ!」でもなく私の名前を・・・
その一言はリゼのずっと求めていた言葉。
誰も自分を認めてくれなかった。「かべのこ」という偽物で偽られてきた。
「オカ・・・アサン」
リゼは自然と化物に母の名前を呼んだ。
幼き頃の母とは似ても似つかぬ姿…だけど私の名前を呼んでくれた暖かさにリゼは昔の母の温もりを感じたのだった。
「オカア・・サン・ナ・・ノ」
「大きくなりましたねリゼ」
間違いじゃなかった!勘違いじゃなかった!
姿カタチが変わっても私のお母さん!お母さんだ!
・・・チャリチャリ!
リゼは足枷を引きずりながら黒い母に近づいていく
…少しずつ少しずつ、そして母の胸に飛び込む。
「オカ・・アサン・・・オカア・サン」
「リゼ、あなたの記憶を呼び戻してしまって・・・2度も辛い思いをさせてしまいましたね」
「あなたになら私は貫かれても良かったのですよ」
震えながら母に抱きつくリゼ。
姿が変わっててもいい!私も黒に包まれてもいい!
この温もりを、この思いを、感じていられるのなら・・・
「さあ!全てを忘れて!魔法の国を一緒に滅ぼしましょう!」
「・・・エッ」
リゼが探し求めた安らぎは静かにヒビが入っていた。
〜続く〜