かべのこ
それはある魔法の国のお話。
この国は争いもなく平和な国でした。
この国では生まれてくる人たちに必ず1つ魔法が備わるようになっています。
火を起こせる魔法や水を出せる魔法、電気を出せる魔法や氷を出せる魔法。
人それぞれ使える魔法は違うけれど、その魔法を使って魔法の国で生活していくのです。
水を出せる人は飲み水にしたり生活用水にしたり、火を出せる人はその火で料理を作ったり暖炉に使ったり、みんなの魔法は生活の一部であり支えながら生活してるのです。
ある日、その魔法の国で1人の女の子が生まれました。新たな子の誕生を国の全員で喜びました、それと同時にこの女の子の使える魔法に全員が興味津々でした。
国に人が増えるということは魔法が1つ増えるということ、それはまた1つ国が豊かになるということだったからです。
しかし…その女の子が使える魔法は壁でした。
大きな壁を1つ出せるだけ。何個も出せるのではなくただ1つだけ…そして、その壁は女の子が魔法をかけ終わると消えてしまうのです。
これでは何の役にも立ちません。
歓迎ムードから一転、役に立たない人間が生まれたと女の子は国中から非難されました。
誰からも相手にされず、奴隷のような生活が続いていきました。
そう、何年も何年も長い間ずっと…
いつしか女の子は「かべのこ」と言われるようになり、晒し者扱いにされていきました。
女の子には喜怒哀楽がありません。
人と接することがゼロに近いので、笑うことも泣くことも怒ることもありません。
ただの「人」として扱われ、命令されるがままに過酷な労働を魔法ではなく自分の身体の五体を使って無表情で行いました。
服がボロボロになっても変えてもらえず、身体が傷だらけになっても手当てしてもらえない。
「かべのこ!」「かべのこ!」「かべのこ!」
周りからの命令や、非難されるときに呼ばれる唯一の呼び名。
名前の無い女の子の唯一の名前。
〜続く〜